高専なんか怖くない

現高専生が高専について感じたままを記録し、まれに本や映画の紹介をします。寮生は暇なんですよ。

響 ~小説家になる方法~ 

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あらすじ

出版界隈が不振だと、嘆いている編集部へ一つの原稿が届く。新人賞に応募されたものだったが、差出不明かつネット応募のみの投稿で、手書きで応募するという明らかに応募規定を満たしていない原稿だった。挙句の果てには、その小説はとある女子高生が執筆しており、当の本人は読んで欲しかっただけだという。

一巻から二巻では、今の出版状況を嘆いている編集の花井ふみと、女子高生作家が手掛かりなしの状況から新人賞を受賞する姿を描いている。

 

1.感想 ネタバレ無しから

一話目から果てしなく面白い漫画である。一話目にこの漫画全体の面白みや、画力? が詰め込まれているので、そこから興味を持てないと全部が苦手な話づくりになっていると思われた。

主人公鮎喰 響(あくい ひびき)がとにかくクレイジーな人物で、彼女一人でこの物語は成り立っていると言っても過言ではない。加えて、登場人物の大半がクレイジー要素が詰め込まれていて、どうしてこのキャラ達で物語が破綻なしに、形成されていくのか不思議でたまらないぐらいだ。

今作はタイトル通りに、主人公響が小説家になる物語であり、彼女を中心に物語が動かされていく。文藝界を描写していく中で、本来地味な絵面が淡々と続いていくはずの作品が、彼女一人のおかげで格闘漫画にまで区分されてもおかしくはないだろう。とにかく、徹頭徹尾彼女は殴る、蹴る、本棚を倒すなどの暴行を作中に登場するメンバーに加えており、迫力のある作品となっている。

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そう、なのに物語が上手く進んでいき、どうにか丸く収まってーー、はいないだろう。けれども、微妙なあんばいで物語は整合性を保っている。それが、主人公の成せるカリスマ性なのかもしれない。

決して作者の画力は高い方ではない。いうなれば、初期の進撃の巨人とどっこいどっこいだろう。いや、これには語弊がある。漫画の見せ方を彼らは知っているのだ。

絵が下手だろうとも、ストーリー、構図、テンポによって作品を面白く描いているわけだ。(カイジとかもそうだけど、やっぱり漫画の面白みはストーリーの方が深く影響してくると思う)

 

気になる作品展開にも次々にページをめくってしまう。

だが、その反面衝撃的な展開が続いてしまうせいか、ある程度耐性がついてしまうのが難点だ。本来なら、物語の核心に迫る部分、つまり起承転結の転、結に持ってくるはずの驚きを、常にかましてくれるので少し驚きが減ってしまうのだ。

「いや、まさか! 嘘だろう?」

の、展開に疲れてくるのかもしれない。

なのに、時折混ぜてくる現役作家たちの本音や、苦難を語り、緩急も上手くつけてくれている。それでも、読んでいて彼女の動向にハラハラすること間違いなし。

 

こんなクレイジー主人公なのだが、たまに見せる可愛らしい一面にも目を通してもらいたい。

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この作者、同人界でも涼宮ハルヒの憂鬱の作品にて驚異的な売り上げを誇る人物でもある。

しかも、涼宮ハルヒかわいい、という作品名であるが、まさかの自分が持ち合わせている数少ない同人誌の作品だとは思いもしない。涼宮ハルヒは以前ブログで紹介した通り、途轍もなく面白い作品で、少し響と似ている横暴系主人公が周りを引き連れて、引き回す物語だ。

深くはまってしまって、同人誌にも手を出していたが作者さんが同一人物だったのには腰を抜かした。きっと、自分と趣味趣向が合うに違いない。

 

もし、この作品が気に入ったのであれば涼宮ハルヒの憂鬱を手に取ってみればいいかもしれない。この作中では、ラノベを卑下する部分も描写されいる箇所もあるが、作者はきっと心得ているはずだろう。ラノベ、純文学、一般文芸、どの作品も面白く、どれも手に取ってみる価値あり、と。

ついでに涼宮ハルヒの憂鬱を気に入ったのなら、この作者の同人作品にも手を出してみればいいかもしれない。きっと、気にいる事だろう。

 

今現在、六巻(七月十五日)まで発売されていて、手も出しやすくマンガ大賞での宣伝からどこの書店にもあるはずだ。

 

あ、それと現実の小説の作品が実名で登場していたり、オマージュと言えばいいんだろうか、本物の作家名をもじって作家さんが登場していたりもする。「あ、この人はこの人だろう」と、推察してみても一層楽しめるだろう。でも、そういう系統が、文学が好きな人、この作品嫌いそうだなぁ。面白いんだけどなぁ。

 

2.感想 ネタバレあり

と、二段階に話の感想を初めて分けてみたが、物語の感想はほとんど書いた気がする。と、言ってしまうと、今度はそれぐらいしか面白さを語れないのかと言えばそうでもないのだが。

結論から言ってしまえば、彼女、響は小説家になります。タイトルで小説家になる方法と綴られていますが、確定するのは結構早いです。途中、最終候補までたどり着く際に、ものすごくハラハラさせられた。物語が思う通りに動いてくれない歯がゆさ、ってじれったいよね!

最終候補まで名乗り出て、本来幸せハッピーのはずの彼女は、成行きで編集部を訪れたりするのですが、もう大変。最終選考にて受賞の判断を決める現役作家さんを殴る、蹴るで、投稿された作品の評価に影響が出るんじゃないかと、微塵も心配していない本人の心情を知りたくなってくる。

しかし、そこで絶妙なカタルシスを味わうのだ。どうも出てくる人物はクズばかり、クレイジーばかりで人間性ができていない(本人も含めて)。彼女の暴行は正当……、かは少し審議ものだけれど、爽快感があって気持ちいいのだ。

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なのに、彼らーー作者たちも実は根本から悪いわけではないから憎めない。うーん、と唸ってしまう状況に。響の小説を読み、これまでの自作を思い返し、素直に認めるところがまたぐっとポイント。

 

響の小説は、賞を受賞し刊行予定になりますが、まさかの直木賞芥川賞、ダブルノミネートされる。いやしかし、エリちゃんもいい子だよ。本当、一番人ができているなぁ。親父さんは有名作家の祖父江 秋人(そぶえ あきひと)であり、村上春樹みたいかな? 日本を代表する純文学作家を持つのでも苦労するだろう。

昨今の小説もネームバリューがある意味重視されていて、近頃もピース又吉芥川賞を受賞したり(これは作品を貶しているわけではない。作中にも本人を似せられた登場人物が出てくる)、彼女ーーエリちゃんも及第点の小説の面白さからデビューし、周囲からあんな扱いされてはたまったもんじゃないはずだ。自分だったら、グレて暴れまくりますね。夜の繁華街を出回ったり。

 

作中に出てくるヤンキーどもが案外、一番真面目という。

 

相変わらず、主人公は直木賞芥川賞、ダブル受賞するし、会見の場ではマイクを投げるは、窓から飛び降りるはハチャメチャだし。

幼馴染は一見普通かと思いきや、部屋中に響の成長過程を写真保存しているし(なのに周囲は受け入れているし)、クレイジーな登場人物ばかりの作品だ。

 

6巻では1年が作中で過ぎており、これから新しい物語が紡がれていくだろう。とても楽しみだ。

ある意味常識人ぽかった関口 花代子(せきぐち かよこ)も、ラノベの新人賞で響に代筆してもらった作品を投稿して大賞を取るわで飽きさせてくれない。

 

今一番に彼女、彼らの行方を知りたくなっている自分がいる。

何でこんなに面白いんだろう……。

 

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